二〇〇四年三月初めには投資家すなわち株主側は一本化し、五〇%以上の株主の支持を取り付けた穏健派が、新しい取締役を選任するまで「暫定的」に株主を代表する「相談役」の立場に立った。
穏健派はファニー・ファンドの内部調査を了承し、新規取締役会の役員の選出、現取締役会全員の退陣、そしてファンドの価値再生のためのビジネスプランを固めるべく、ベルギーのブリユツセルでいくたびか会議を聞いた。 会議に出席したのは、フォルト銀行を筆頭にヨーロッパの大手プライベート・パンク五行の代表者、スティーブ・ワグナーとブレア・フエイパーが関係していたジュネーブのコンサルティング会社キャピタル・ヴイエンフエを含む三社、そして一〇〇〇万ドル以上の大口個人投資家二名、さらに、新役員候補の五名であった。
スティーブ・ワグナーは、二〇〇四年一月末に穏健派リーダーのデユ・クラピエとニューヨークで会った。 スティーブは、レストラン・ルテスでのゆったりしたランチにデュ・クラピエを誘った。
ミッドタウンのやや東側にはずれたタウンハウスのレストランはマンハッタンの喧騒から離れ、気分も落ち着いて話ができるだろうと、スティーブは奥のテーブルを予約した。 デュ・クラピエは、現れるとすぐ、タウンハウスの天井から差し込む半透明の光が照らすルテスの明るく落ち着いた雰囲気をとても気に入った。
テーブルに着き、互いに自己紹介すると、ふたりとも五〇歳代前半で、似たような銀行業務のキャリアを積んできた者同士、すぐに信頼し合うことができた。 スティーブのこの取り計らいは、うまく機能した。
その後の進展状況について、デュ・クラピエが直接報告してくれることになった。 「ご存知ないかもしれませんが、ポール・シェーカー社長はデニス・ランドックを個人的に訴えています。

ファニー・ファンドの株主総会にランドックが殴り込みをかけたことが、どうもシェーカー社長の逆鱗に触れたようです。 ランドックはとても有能な男です。
彼はシェーカー社長の無能さとがめっさに失望し、さらにその前の年の多額のボーナスを踏み倒され、相当頭にきて、あのような思い切った行動に出たようです。 気の毒なことに、ランドックは社長自らに訴えられているので、われわれの会議にも出席できません。
ところで、プレア・フエイパーとは連絡がありますか」とデュ・クラピエは聞いた。 スティーブ・ワグナーは、「年が明けてから連絡はありません。
実は、プレア・フエイパーとは、ジュネーブのキャピタル・ヴィエンフェ社を通して知り合いました。 彼の中東の顧客のいっしょにアプダピへプレゼンテーションに行ったことがあります。
しかし、彼のプライために、ベートなことはあまり知らないのです」と答えた。 「プレア・フエイパーはあまりにも急進的で、われわれが調査に関わっているにもかかわらず、ファニー・ファンド幹部がシユレッダーで資料を処分したなどとうわさを流しました。
また、彼は、ファンドの会計監査を行っていたEDO杜も訴えようとしています。 フエイパーは表向き投資運用コンサルタントですが、どうもどこかのシークレット・エージェントですね。

その種の資金運用を任されており、一部をファニー・ファンドへ投資したようです。 フエイバーの投資家たちが運用に損失が出たと知り、損失額を取り戻そうと、彼に圧力をかけて、運用会社ごと訴訟に持ち込むことを企てたようです。
最近、彼とコンタクトできないので、ちょっと心配しています」と、デュ・クラピエはやや声を落として話した。 スティーブ・ワグナーは、プレア・フエイパーのロシア人の妻を思い出した。
ロシアのマフィアかアメリカのCーAか、もしくは二重スパイとしてその両方にフエイパーが雇われているのだろうかと想像をめぐらせた。 「なるほど、フェイバーは、ファニー・ファンドの幹部が不正をしたという確実な証拠をまだつかんでいないのですね。
そのM=大量破壊兵器(WMD、当080ロえ宮山明白ロg可RE同町Oロ)MM は本当にあるのでしょうか」と、スティーブは質問した。 ちょうどそのころ、アメリカでは、「イラクが大量破壊兵器(WMD)を保有し、それがアメリカにとっての脅威になっている」というブッシュ大統領のイラク戦争突入を正当化したレトリックが、疑惑の的になっていた。
アメリカ議会はWMDが最初から存在しなかったのではないかと、プッシュ政権に疑問を投げかけ、メディアはWMDの有無がイラク戦争の正当性そのものを揺るがすと、連日報道していた。 デュ・クラピエは大笑いし、「ファニー・ファンドのWMDはまだ見つかっていません。
今後新しい取締役会が発足すれば、独自に徹底した調査を行います。 でも、調査には議会並みに時聞がかかると思いますよ」と言い、ふたりはしばらく笑い続けた。
「それから、目下の深刻な問題は、ポール・シェーカー社長とダーク・ヴァン・ベルグがわれわれの退陣要求に応じないことです。 ポール・シェーカーは、退陣要求を呑む代わりに相当な報酬を請求しています。
これは明らかにずっと前から周到に計画されたことだと思います。 ダーク・ヴァン・ベルグは過去五年間もヨーロッパでの販売営業に携わってきました。
私も含めて多くのプライベート・パンカーが彼を信用し、ファニー・ファンドに投資しました。 その結果が、こんなことになるとは。
彼にすっかり輔されたような気分ですよ。 こんなひどいことは長い私のキャリアで初めてです」とデユ・クラピエは困惑した面持ちで語った。

スティーブ・ワグナーもうなずき、自分もその被害者のひとりだと認識した。 「それでも、気を取り直して、われわれは前に進まなければなりません。
これだけ多くのヨーロッパの大手機関投資家と富裕層を巻き込んだわけですから。 この三ヵ月問、私が中心となって、アメリカの不動産市場、オフショアの法律・会計事情、ヨーロッパの投資事情に精通した人びとを見出し、面談し、そして身元を調査し、ファニ1・ファンドとこれまで競合する利害関係がなかったかどうかを洗い出し、ようやく新規の経営陣の中心となる人選がすんだところです」と、デュ・クラピエは、新規役員候補五名の略歴を示した。
スティーブは、箇条書きになった五名の略歴に目を通した。 特に新経営陣の中心的役割を果たす二名、パート・タウゼント四世とブルース・ミッチェルは彼もその高名を聞いて知っていた。
パート・タウンゼントはすでに六〇代後半にさしかかった大物だ。 名字の下に「四世」とつくほど家柄がよく、今日のシティ・パンクの創始者の一族に属し、ロックフェラーなど多くのウォール街の支配層とつながっていた。
パート・タウンゼント自身は、現在、商業用不動産投資専門の個人会社を経営し、ウォール街の一角に小さな個人オフィスを構えていた。 また、ブルース・ミッチェルは四〇代後半で、元ゴールドマンサックスのM&A部門のインベストメントパンカーだった。
その後、パミューダでスイス系の大手保険会社の子会社のCEO(最高経営責任者)をしていた大変有能な人物で、スティーブは彼の評判を以前から耳に挟んでいた。 その他三名は、ベルギーの投資会社出身でヨーロッパとアメリカでの不動産投資に経験のある人物など、運用実績のある優秀な人物の履歴が紹介されていた。


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